聖マリエル女学院。
都心から離れた郊外の丘の上に建つこの学舎は、かつてはシスターを育成するための修練院だったという。
時代が移る中で一般的な教育施設に変わる際、西洋思想の先取りとばかりに地元の有力者達がこぞって自分の娘を通わせた。
その結果、膨大な寄付が集まり、学院は急速な発展を遂げる。
現在ではそのような派手さは失われ、寄付によって建てられた様々な施設に当時の栄華を偲ぶのみ。
通学する生徒も普通家庭の女子が殆どを占めている。
友原春菜も、そんな生徒の中の一人。
仲の良い友達や後輩に恵まれ、代わり映えはしないが、それなりに楽しい学院生活を送っていた。
そして卒業式も近いある日、彼女は後輩から一冊の本を渡される。
内容は、女の子同士の激しい恋愛を描いた小説。
規律の厳しい学院内にあって、それは禁書とも言うべき存在だった。
初めて知る世界に戸惑いながらも、胸の奥に何かが芽生えるのを感じる春菜。
「こんなの、イケナイ事なのに……」
本の事が気にかかり、生活のペースが乱れてゆく。
そして、あろう事かその本を教室に置きっぱなしにしてしまった。
「誰も見ていませんように……」
神様に祈りつつ教室の扉を開ける。
そこには、本を読んでいる幼い少女が一人いた。
その、ひたむきな様子からは崇高ささえ感じられる。
しかし、少女が読んでいるその本は、 その本は……。
呆然とする春菜に、不意に少女が問いかける。
「これ、あなたの?」
「……」
何も言えず、頷くことしか出来ない春菜。
少女が近づく。 身体が動かない。
「あの……」
見知らぬ少女に呼びかけようとしたその時、
「!?」
夕日が差し込む教室で、春菜と少女は口付けを交わしていた。
時を同じくして、囁かれ始める一つの噂……「処女検査」。
聖堂内にあるという、異端者を尋問する部屋での身体検査。
堕天使に惑わされ、色欲の虜となった生徒の粛清。
数年前に行方不明となったという女生徒の話。
同じことの繰り返しと思っていた日常が、急速に動き出す。
膨らみかけの蕾のような少女の身体に、性の洗礼が襲いかかる。